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大阪高等裁判所 昭和56年(く)96号 決定

少年 K・T子(昭四〇・一・一三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は要するに、原裁判所が少年を中等少年院に送致する決定をしたが、少年は来春に電気会社の下請工場に就職して働くつもりでいたので、せめて半年間の収容期間にしてもらいたい。また、広島の少年院に収容されることになったが、家族等との面会にも遠過ぎるので地元の少年院に収容してもらいたい、というのであり、処分の著しい不当を主張するものである。

そこで保護事件記録及び少年調査記録を調査するのに、少年は中学二年後半から不良交遊を始め、無断外泊、怠学を繰り返し、不純異性交遊、喫煙などに耽り、暴力団組員とも交際するなどの荒廃した生活を続けるうち、昭和五五年二月一二日、他の者らと共謀のうえ暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝未遂の非行に及んで昭和五五年七月一一日審判開始決定を受けた後(昭和五五年少第三三八二号)更に同月二五日本件共犯者らと傷害、恐喝の非行を重ねての立件のうえ(同第九一七〇号)、右三三八二号事件と併合され、同年九月一〇日試験観察決定を受けて補導委託に付されたが、昭和五六年二月一七日不処分決定を受けた。

しかるにその後も素行修らず、右不処分決定後にA子と共謀のうえ、同女らが寝泊りしていたアパートの一室に、被害者であるB子を連れ込み、同女に対し少年らのおこした二か月前のリンチ事件が警察に発覚したのは同女の密告によるものとして恨みを抱き本件の逮捕、監禁致傷の非行に及んだものであつて、その態様からみて、少年の更生意欲は乏しいものと認めざるをえないばかりか、非行の志向性も増大するおそれがあり、一方少年の両親において少年を指導監督する能力が欠如していると認められ、その他少年の年令、性格、不良交遊など一件記録に現われた諸般の情状に徴すると、少年に対しては、この際中等少年院に相当長期間収容したうえ、生活指導や職業訓練等を通じて主体性のある人格を形成し、勤労意欲と社会適応能力を養うことが必要であると認められるので、少年に対し短期処遇が相当であるとは考えられない。したがつて、これと同趣旨の見解に基づき、短期処遇相当の勧告を付せずに、少年を中等少年院に送致した原裁判所の処分は相当である。

また、少年は、地元の少年院に収容されたいというのであるが、何処の少年院に送致するかについては、共犯者との関係その他諸般の事情を考慮して執行機関において決すべき性質のものであるから、このような理由による抗告は許されないものであるというべきである。

よつて、本件抗告はその理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本久巳 裁判官 梨岡輝彦 宮平隆介)

〔参考一〕 抗告申立書

抗告の趣旨

私は中等少年院の決定を受けましたが、私としては来年の春に電気会社の下受けの工場に就職して働らいてゆくつもりだつたので、来年の春の就職の時期にまにあうように、せめて半年の期間の収容にしてほしい、それから行く先が広島の少年院となりましたが、面会にも遠すぎて不便だと想うしそんなたびたび面会出来ないにしても遠すぎると想うので、地元の少年院に収容してほしい。

〔参考二〕 少年調査票〈省略〉

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